ロンドン通信

ロンドンで働く(2) ~英語力が不十分だと、具体的にどう困るのか-ロンドン通信vol.6-

私にとってロンドンで働く最大の試練はなんといっても英語。

英語の苦労

リーガルアシスタントの仕事で使う英語は、ある程度想像の範囲で事が運ぶことが多く、思いの外なんとかなります。(交渉やプレゼンとなると全く別。あくまでアシスタント業務の話。)

英語が不十分なために苦労した、仕事以外の3つを挙げてみると。

(1)社内外の人脈が築けない
圧倒的に苦労したのはこれ。仕事を進める上で苦戦することは言うまでもなく、精神的に相当なダメージを喰らいます。

日本に居た頃、私がコミュニケーションで最も大切にしていたことは「直接会って話をする」こと。廊下やトイレで会った同僚には一言声をかけて立ち話をする、他部門のスタッフや社外の取引先を積極的にランチに誘うなど、会話をとても大切にしていました。そして、そんな自分は明るく前向きな性格であると、かなり強い自負がありました。

ところが、英語に自信がないと、なかなか一歩が踏み込めません。職場のトイレやキッチンで、’Hi!’や’How are you?’と声を出すのが精一杯。ランチに誘う勇気もないし、Leaving Drinks(後述)をはじめ職場のパーティーも、不安が先んじてほぼすべて欠席。

英語が堪能な友人たちからは
「勇気を出して、なんでもいいから喋ってみることが大事!」
とアドバイスをもらいますが、何を話したらいいのか、どういう英語の表現を使ったらいいのか…考えているうちに躊躇して、コミュニケーションから逃げてしまいます。

あれだけ明るく前向きと自負していたのに、暗くて後ろ向きに性格まで変わった気さえしました。

しかし、勤務開始から3ヶ月目、「もう、いよいよ、英語から逃げるのはやめよう!」と決意した出来事が起こります

よく挨拶や軽い会話を交わす、私にとっては事務所内で3本の指に入る馴染みあるDenise。ある朝、Deniseが新人弁護士を帯同(出勤初日の挨拶まわり)しながら、
「この人はSamよ、この人はAlexで…」
と同僚を紹介して回っていました。

いよいよ次は私の番。「なんて挨拶しようかな」「なんか気の利いた言い回しできないな」と頭をクルクル回転させながら、Deniseが私を紹介してくれるのを待ち望んでいたその瞬間、
「ええっと…、あなたは名前なんだっけ?」

え?!ええ!そして周りも誰も笑ってくれない…

そっか、私、そのくらい、存在感ないのか…と悲しむ以上に、「あー、むしろ吹っ切れた!これからもう、なんでもいいから同僚に話しかけてみよう!」と、この瞬間にスッキリ憑き物が取れたような気がしました。そして、この出来事を境に、3ヶ月に亘るネガティブトンネルをようやく抜け、私の気持ちは完全にポジティブに切り替わります。


気持ちを切り替えた翌朝の通勤中。普段よりテムズ川が美しく見えました。

(2)常に三手先まで準備・対応=異常に時間がかかる
一例を挙げます。日本にいた頃は、ファイルサーバーにドキュメント保存ができないときは、すぐにIT部門に電話して
「資料がサーバーに保存できないんですけど、どうしたらいいですか?」
と気軽に尋ねていました。

しかし、英語力が不十分ななか、こういう抽象的な質問はかなりチャレンジングです。なぜなら、質問が抽象的であるほど、回答は長くなる、或いは回答の予測ができず、ヒアリング力がなければ正確に理解できないからです。それに、忙しい同僚たちの時間や手間をかけるのも避けたい。

そこで、誰かに何かを質問するときは
1) 自分なりにあれこれトライしてみて、それでも出来ない場合に限り質問
2) なるべくYes/No Questionの形式となるよう質問内容を整理
3) 相手に分かりやすく伝えられるよう(私の場合はビジュアルを利用)、関連資料を印刷または画面をスクリーンショットで準備
この3つを、至るところで行うことになります。これに時間がかかる、かかる…


パソコンで日本語入力ができなくなった日のメモノート。
日本では書かなくとも頭の中でできていた情報整理ですが、英語では書いた上でIT部門に電話。

(3)sarcasmか判断できない
イギリス人はよく皮肉を言うと言われています。
例えば、土砂降りの雨が降っているときに「素敵な天気ね」と言ってみたり、大音量で演奏される音楽に対して「そんな大音量で弾くなんてすばらしいわ」と言ってみたり…
しかし、英語で気軽な会話ができないと、相手が言っていることが皮肉なのかどうかがわかりません。

私の経験を一例に挙げると、だれがどう見ても気が抜けた格好をしている日に同僚に
「そのお洋服素敵ね!」
と言われたり、チーズの匂いが強いマカロニグラタンをランチタイムに職場で食べていた時に
「美味しそうな匂い!」
と言われたことがあります。

皮肉なのかわからず、仮に皮肉だったらThank you.の返信はおかしいしい、皮肉じゃなかったらうがった見方をするのも申し訳ないし…と、返しに困ることが何度かありました。

そこで、同僚に(sarcasmという単語を知らなかったので)先ほどの天気の例を挙げながら聞いたら
「ああ、それはsarcasmというのよ。確かにイギリス人はsarcasmをいうけど、誰が見ても明らかなときに言うことがほとんどよ。それに、職場では基本的に禁止されているし、よほど仲良しの同僚でなければまず使わないから。」
と言われて一安心。

しかし、日が経つにつれて仲良しの同僚ができてくると、それはそれで
「もうこれだけ仲良くなってきたし、さすがにこれはsarcasmかな」
と、毎度少しドキドキしています。

さて、続いては、ロンドンで働いて印象的と感じたソフト面についてご紹介します。

「差別」厳禁
私の職場は、ロンドンの街の縮図のよう。幅広い年齢層(恐らく一番上と下は50歳近く離れている)、男女比率は半々くらい、人種も国籍も実に多様、車椅子の方もいらっしゃいます。絵に描いたようなMulticulturalな職場。

イギリスは法律で差別が禁止されています(Equality Act 2010:2010年平等法)。
「年齢、障害、人種、宗教または信条、性別・性適合・性的指向、婚姻・同性婚、妊娠・出産・育児」による差別は違法。

法律のみならず職場のルールでも差別は明確に禁止されています。
差別を感じることも、誰かに対する差別を感じることも見聞きすることも、これまでのところ一度も経験がありません。

職場の雰囲気
人間関係も服装も、驚くほどフラットかつカジュアル。(少なくとも見た目上は)役職を超えて自由に会話します。むしろ、役職が上の方がデスクを回って積極的にスタッフに声をかけておられます。

多くの絵画が飾られ、キッチンやデスクにはtreatやフルーツが置いてあり、色鮮やかな職場。

ペットボトル飲料を飲んでいる人がほとんど見当たらないことや、紙仕事よりデータ仕事が多いことも、私の大好きなところです。

飲み会
日本では比較的多かった職場飲み会ですが、こちらではほぼ皆無。
「歓迎会」はランチが多いです。昼間からみんな普通に飲んでいてビックリ。
特徴的なのは「送別会」。職場で‘Leaving presentation’が行われ、事務所全員が‘Leaving Drinks’に招待されます。

outlookの写真と現実のギャップ?
職場のoutlookでは、各自個人プロファイル用の写真を設定しています。装いもカラフルで、ほぼ全員が笑顔の写真。とても明るく素敵です。ただ、写真があまりに素敵すぎて、実際とかけ離れていることも多く、写真を頼りに職場で人を探すことが多い私にはまあまあ試練。

当初の契約期間の3ヶ月間は、正直なところ、楽しいことがあまりなかった記憶です。辛いこと、悲しいこと、苦しいことの連続で、契約終了日までを毎日カウントダウンしていました。仕事自体はほとんど問題ないのに、英語が不十分なことによる弊害があまりに大きすぎ、想像以上にしんどかった。

でもDenise事件(?!)を機に完全に気持ちが切り替わった後、「諦めないで継続すること」で、少しずつ状況は変わってくるものです。また機会を改めて、「その後3ヶ月の変化」をご紹介します。


【筆者プロフィール】

小根森純子。大学卒業後、松下電器産業(現パナソニック)入社。ロンドン転勤の夫に帯同するため、2019年8月退社。同年10月より英系法律事務所にて勤務開始。
TOEIC790点。二技能かつ選択問題のためそれなりの点数に見えなくもないが、実力的には600点程度と予想。仮に四技能の試験になれば恐らく400点程度。聞く・話すが極めて苦手。
夫・息子(14歳)との三人暮らし。家族・友人・旅行・グルメが大好きで、蛇とネガティブが大嫌い。

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