ビジネス

「世界基準」という言葉を使うリスク

木内裕也
PEGL[ぺグル] -実践ビジネス英語講座- 講師

ビジネスの世界だけではなく、スポーツの世界などでも「世界基準」という言葉がよく使われます。しかし、英語でGlobal standardというのはあまり耳にしません。耳にするとしたら、日本語の発言を英語に訳した時。もしくは日本語の書類を英訳した文書を目にした時など。

そもそも、「世界基準」とは何を意味する言葉でしょうか? 例えば「まだ日本は世界基準から遠い」と言ったとします。そこには「日本対世界」という図式があります。もちろん、日本の特有さもありますが、それはほかのどの国にも言えること。そうすると、「世界」をひとまとめにしてしまうことの不適切さがあります。

また、「世界」と言った時に無意識に意図している国々はなんでしょうか? もしかすると、片手で数えられる(多くても両手で数えられる)程度の国だけを想定してはいないでしょうか? そうすると、それらの少数の国の「基準」が本当に世界基準でしょうか?

それに加えて、「じゃあ、世界基準って具体的に何ですか?」と質問した時に、その回答が明確でないことも多くあります。世界の平均を意味しているのか? それとも世界のトップを意味しているのか? 世界のトップ5なのか。非常に曖昧な言葉を使うことのリスクは、目標が不明確になること。目標が不明確だと、目標を達成するためのステップも不明確になりますし、目標を達成したことにも気づかず、達成できなくても何が理由かわからない場合が少なくありません。

それでは、何を目標に努力をするのが良いのでしょうか? また、「世界基準」ではどんな表現が使われているのでしょうか? 1つ目に挙げられるのが、上記にある通り、具体的な目標を掲げること。「業界でトップ3の売り上げ」のように数値化できるものであったり、「より論理的な思考を身に着ける」といった概念的なものもあるでしょう。前者のほうが客観的に成長の度合いを測りやすいですが、後者でも「世界基準」とだけ言うよりは具体性が生まれています。

2つ目にあるのが、「〇〇と比較すると」という風に、具体的な比較対象を挙げること。「世界基準」の「世界」が何を示しているのか不明確だと、やはり目標がはっきりしません。

「世界基準ではXXがなされている」というのではなく、もう少し具体性を持たせて、「トップの業績を記録している企業ではXXがなされている」という風に言うだけで、目標が明確になるでしょう。


筆者:木内 裕也 PEGL[ぺグル]-実践ビジネス英語講座-講師
https://pegl.ohmae.ac.jp/lecturer/kiuchi
ミシガン州立大学アメリカ研究博士号取得。国際会議、企業間交渉、テレビ放送などでの同時通訳ならびに実務翻訳を中心に活動。バラック・オバマ元大統領の自伝、マイ・ドリームの翻訳者。アフリカ系アメリカ人の歴史と文化を学術専門分野としてデトロイトやボストンなどで研究を行う。ミシガン州立大学では、アメリカ研究、大衆文化の授業を担当。上智大学で通訳講座を担当した経歴も持つ。TOEIC、TOEFLで満点、英検1級など主要な英語資格検定で最高峰の記録を持つ。

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